『宝島』/真藤順丈①
職場の人に借りて読んだ。
こういうストーリー重視の小説を読むのは久しぶりかも。
あとこんな分厚いハードカバーの本を読むのは『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』以来か笑
目次
第一部 リュウキュウの青 1952-1954
一 嘉手納の戦果アギヤーたち、鉄の暴風ふたたび、聖域
二 英雄の消えた街、カフー、クブラは恐ろしい
三 ハイサイ獄窓より、美里の女、手を取って島の外まで
四 ここにいない恋人(ウムヤー)、獅子吼する囚人、菩提樹の契り
第二部 悪霊の踊るシマ 1958-1963
五 コザの新兵、洞窟(ガマ)の呼び声、新しい友人
六 ヒンジャーの領土、出オキナワ記、神の犬
七 それぞれの転職、F-100D-25-NA、訣別の日
八 沖縄(ウチナー)の王とサンアイ・イソバ、いくさ世(ゆ)、蜃気楼の島へ
九 機密(コンフィデンシャル)、どんなときでも淘汰できないもの、ハーバービュークラブの<煙男(キブサー)>
十 英雄の弟(ウットウ)、ボゼ、ここより昏い場所があるなら
十一 見ず知らずの故郷(シマ)、暗殺者たちのララバイ、深い泉の底から
第三部 戦果アギヤーの帰還 1965-1972
十三 聖夜の贈りもの、怒れる教師たち、大審問
十四 世界でいちばんかわいそうなウサギたち、貧者の核爆弾、娼婦の子ども
十五 あそこにはおばけがいる、往生際の悪い男、ピケット・ラインの攻防
十六 真実をささやく梢、夜の来訪者(ストレンジャー)、そして英雄がよみがえる
十七 下手にいじったら危ない、復帰の条件、戦果アギヤーの墓場
(プロローグ)
「われらがオンちゃんは、あのアメリカに連戦連勝しつづけた英雄だった。」
「…周囲を見渡せば、親友(イイドゥシ)のグスクも、弟のレイも、それからヤマコもそろっている。」
一 嘉手納の戦果アギヤーたち、鉄の暴風ふたたび、聖域
「身をもってあの地上戦を体験した十三歳が成人を迎えたこの年、満を持してオンちゃんが標的に選んだのがここ嘉手納空軍基地。」
「どんなときも”金網破り”の正攻法を崩さないのがオンちゃんで、単純なぶんだけその計画は崩れづらく、これまでに警笛や銃声に追われたことは一度もなかった。 それなのに、いったいどうして――」
「ここって、ウタキみたいさぁね」
「オンちゃんとは、ここに来るまえにはぐれたままやさ」
「息もつかずに金網を飛びだしたところで、『オンちゃんは!』とヤマコに訊かれた。グスクは弁解のひとつもできなかった。」
二 英雄の消えた街、カフー、クブラは恐ろしい
「ううん、警察にも居(う)らんかった。オンちゃんだけどこにも居らんがぁ」
「戦果アギヤーのデビュー戦のときなんか倉庫を見張る衛兵がみんな即中毒で寝込んでいた」
「キャンプ・カデナの襲撃には”脅迫”という秘めた背景があった。基地から奪った拳銃や弾薬類はすべてクブラに流すことになっていた」
三 ハイサイ獄窓より、美里の女、手を取って島の外まで
「退院してすぐに服役囚となったレイのもとでも、四季は移り変わる。兄(ヤッチー)の消息について報せもないままに、夏から秋をまたいで、あくる年の正月(ソーグワチ)をレイは那覇の刑務所で迎えていた。」
「おまえはチバナやさ。知ってるぞ」「あんたもジョーを、捜してるわけ」
「レイの脱走撃破、十時間足らずで幕を下ろしていた。 そのまま刑務所に、とんぼ返りさ。」
四 ここにいない恋人(ウムヤー)、獅子吼する囚人、菩提樹の契り
「だれにも話したらならんど、おまえの笑顔がおれの大好物だって」
「嘉手納の夜を最後に会えなくなって、ヤマコが見ていたすべての風景は一変してしまった。」
「こうしてグスクも窃盗と不法侵入で実刑を打たれて、あくる月には刑務所へと送られた」
「房のなかでレイは、受刑者たちの雄叫びの音頭をとっていた。」
「こんなもの、兄貴(ヤッチー)のやってきたことにくらべたら、運動会の続きみたいなもんさ」
「望んだものやあらん。予定にない戦果。おかげで落とし前(チビ)もつけきらん。」
五 コザの新兵、洞窟(ガマ)の呼び声、新しい友人
「具志川の警察学校を卒業して、激務で知られるコザ署の掲示課に配属になったのは、地元民ならよく知っているあの男だ」
「一九五八年の九月、見習い刑事がコザに配属になったその日―― ちいさな浮浪児(ムヌクーヤー)が、ひとり。」
「長びく雨の中で、汚れた顔をもたげた。 嘉手納の塵捨て場で、異郷の血が濃い眼面差しを濡らして。 きらめく雨のひと滴ひと滴に、はしばみ色の瞳で見入っている。 濃くて真っすぐな眉毛、前歯のかけた五、六歳の男の子だ。胡桃色にくまなく焼けた肌に破れ目だらけ(ミーミーフーガー)のランニングシャツと半ズボンをまとって、泥にまみれた島草履を履いている。」
「あのときの洞窟で、誰のものともわからない無残な亡骸のひとつになって、生きのびた夢を見ているだけじゃないのかと――」
「振り返ると軍服を着ていないひとりの白人が、グスクの手首をつかんでいた。」
「…もし米民政府との関係を築いて、軍の内情を探り、島民にとっての近畿の領域に踏み込むことが出来れば、親友の行方をふたたびおいなおせるかもしれない。」
六 ヒンジャーの領土、出オキナワ記、神の犬
「隠居したママに代わって”ヌジュミ”を切り盛りしていたチバナの住まいになしくずしに居候をはじめて、知己を頼って”コザ派”にも出入りするようになった。」
「異国の血が入った孤児は珍しくなかったが、群れに交ざるとやはり目立つ。こっちの言葉が通じてないのか、話しかけてもなにも答えない。おかしなやつだ。歯欠けの笑顔を浮かべて、道の風景のようにレイを眺めるだけだった。」
「コザと那覇をつなぐ軍道五号線を歩きながら、あらためてアメリカー襲撃のいきさつを聞かされた。」
七 それぞれの転職、F-100D-25-NA、訣別の日
「そんなあんたがに十歳をすぎてから教員訓練所に通って、とうとう試験に合格したというんだからすばらしい。」
「墜落機のばらまいた燃料を浴びていたのか、三つ編みのお下げから引火して、ナミが燃えさかる炎に包まれた。」
「ある種の物事は暗い根のように世界に先端を伸ばして、弱い部分を探り、崩れるはずのなかった堅固なものも突き崩してしまう。だけどおなじことが、島の片隅の路地裏でも起こる。我慢強く時間をかけて、つましい営為を重ねることで、沈黙の片井からも破ることができる。そうしてささやかな変化は、大きなうねりの予感となって世界に戻っていく。」
「かくして教員をつづける決心を固めて、それからは集会やデモにも顔を出すようになった」
八 沖縄(ウチナー)の王とサンアイ・イソバ、いくさ世(ゆ)、蜃気楼の島へ
「三代目の高等弁務官に就いたポール・W・キャラウェイは、弁務官というよりも植民地の支配者としてこの島に君臨した。」
「こっちで荷分けしないでトカラの悪石島に運んで、詰みなおして本土(ヤマトゥ)や大陸へのルートに乗せるのさ。」
「六〇年代に入ってからコザと那覇の二大組織は、一触即発の危うさをはらむようになった。」
九 機密(コンフィデンシャル)、どんなときでも淘汰できないもの、ハーバービュークラブの<煙男(キブサー)>
「君はキャンプ・カデナの強奪未遂事件のこと、行方知れずの戦果アギヤーのことで軍司令部の記録を探りたいんでしょう」
「どんな暴君にも、政治や戦争にも、男女が好き合う気持ちだけは淘汰できませんから」
「すでに情報は集まっている。かつての戦果アギヤーの一派と、刑務所の中で築かれたグループによって暗殺計画は共謀されている。」
「君たちは党内に潜伏するあの男の指示によって、高等弁務官の暗殺を謀り、体制の転覆を狙っている。」
十 英雄の弟(ウットウ)、ボゼ、ここより昏い場所があるなら
「海中に吞まれかけたレイの生還は、船員たちを発奮させた」
「聞いたことがある。三体いるのはトカラの仮面神、ボゼやさ」
「ほんとうは、兄貴が生きていることを確かめるためじゃない。 おれは、兄貴が戻ってこないことを確かめようとしていたんじゃないか。 英雄だけが娶ることを許される恋人を、ずっとこの手で抱きしめたかったから――」
十一 見ず知らずの故郷(シマ)、暗殺者たちのララバイ、深い泉の底から
「あたりを見渡しても島の風景が違って見える。暗殺計画のこと、親友のこと、その弟のこと――気がかりなことばかりだったけれど、最寄りの病院にも駆け込まず、警察署も素通りして幼なじみのもとへと足を急き立てた。」
「警察がちゃっさん建物を囲んでる。だれひとり無傷では出られん。どいつもこいつも銃を下ろさんね!」
「ヤマコはそこでグスクやレイとともに、湧き出ずるものを汲んで帰ろうとしている。だけどヤマコたちの持ってきた器はすぐにいっぱいになってしまって必要なぶんだけを汲みきれない。グスクはおろおろと狼狽している。レイも汗だくで血相を変えている。ふたりともそこには長居できないと知っているから。」
(続く)